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Lee-Byung-hun addicted

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第4話

『Recollection』 第4話



「オッパ。今度おうちに連れて行ってくださる?」

スエは屈託のない表情でそういった。

「えっ?」

「お母様や妹さんともお近づきになりたいし。

日頃オッパがどんな生活してるのかとっても興味があるんです。

ほら、まだクランクイン前に

ファン・ジョンミン先輩の映画の試写会に誘ってくださったじゃないですか。

あの時にオッパ、ラフなカーディガン姿でいらしたでしょ。

私とっても嬉しかったんですよ。

私に心を開いてくださっているような気がして。

あの時から私もう恋をし始めていたんだと思います。

あ・・・言っちゃった。恥ずかしいわ。

とにかく普段の飾らないオッパをいっぱい知りたいんです。私。」

スエはそういうと顔を赤らめながらワインを口にした。

ビョンホンは頭を抱えた。

気がないことを示すために

わざとはずしていった服装で恋に落ちたと言われたらもう逃げようがない。

この子が傷つかないように何とか諦めさせる手はないだろうか。

疲れているせいかビョンホンの頭は全く回転しなかった。

彼女はまだご機嫌で話し続けている。

内容は・・・・全く耳に入らなかった。

とにかく今日は早く帰ろう。

「そうだ。台本のわからないところってどこ?」

「オッパ。お食事が終わってからゆっくり教えてくださいませんか?

それともご迷惑・・・ですか?」

スエは悲しげな目でビョンホンを見つめた。

「・・・いや、そんなことはないけど。ほら、君も疲れているだろ。」

「私はオッパと一緒にいれば

疲れなんてどこかに飛んでいってしまいますから。

私の心配してくださってたんですね・・・嬉しい。」

スエはキラキラとした目でビョンホンを見つめた。

「だめだ・・・・・」

ビョンホンは諦めてワインを一気に飲み干した。





「そんないい加減な勤務医でいいの?」

次の日、村まで送っていくという晋作に揺は怪訝そうに言った。

「俺、ほとんどボランティアだからいいの。

ちゃんと自分の患者は見てきたし、

他の医者に引継ぎもしてきたから。

なんなら日本まで一緒に帰っても平気だぜ。」

晋作は嬉しそうに言った。

「また、そんな冗談言って。」

「ほんとだって。信じてないな。」

「ああ、わかりました。ほら、マリオが待ってるから早く行こう」

病院の用意してくれた救急車の後ろに

まだ入院が必要なマリオを乗せ二人は出発した。

それからというもの、晋作は事あるごとに村を訪れるようになった。

彼の気さくな人柄から彼はすぐ村の人気者になった。

ブルキナファソでは男女の友人というのはない。

ふたりっきりで歩いたり、話したり、

人前でそれらしい素振りをすればたちまち結婚すると思われる。

晋作の揺に対するあからさまな態度は皆に誤解をさせるのに充分だった。

「揺、晋とはいつ結婚式だい?」

会う人会う人が毎日そう聞いてくる。

最初はいちいち違うと言って弁解していたが

あまりに皆が毎日聞いてくるので

揺はいつしか適当に返事をするようになっていた。

そして、ただ、平穏に日々が過ぎていった。

彼はあれ以来揺への気持ちをはっきりと口にすることはなかった。

そして揺も逃げるかのようにその話題には触れなかった。

「揺、今までご苦労様。よくやってくれた。皆感謝している。

出来ればもっといて欲しいが

もうすぐJICAとの約束の期日だ。

予定どおりに帰国するかい?

それとも観光がてらもうちょっと滞在する?」

主任がそう尋ねた。

「そうですね。私も名残惜しいですが・・・

あちらでの予定もありますし、日程どおりに帰国しようと思います。」

「そうか・・・じゃあ、お別れ会は出発日の前の日にしよう。」

「ありがとうございます。」

「いやいや。実に楽しみだ・・・」

主任はにっこりと笑った。

お別れ会までの数日というもの皆は準備に忙しそうだった。

本当に温かい人たちでかれらの想いにふれるにつけ

揺はブルキナファソに来て良かったと思っていた。

予定外に晋作と会うという出来事が起きたが

明日にはもう帰るのだ。

彼との再会はきっとマラリアのようなもので

日本に帰ればビョンホンの顔を見れば3ヶ月前の自分に戻れると

揺は確信していた。

晋作には本当に良くしてもらった。

彼を好きな気持ちには変わりはないが

もう一度やり直すことはできない。

もう揺はビョンホンと知り合ってしまっていたから。

彼を忘れて他の人と生きることはやはり考えられなかった。

そして、お別れ会当日。

会場に迎えられた揺は驚く光景を目の当たりにした。

「・・・・えっ・・・・誰の結婚式?」





『夏物語』の撮影は予定より少し長引いていた。

作品としての出来は満足のいくものになりそうな予感がしていた。

ビョンホンとスエとのロマンスの報道も宣伝効果となって

実力・話題性ともに充分な作品とマスコミからも注目されていた。

スエのビョンホンへの思い入れは日ごとにエスカレートするばかりだった。

お手製のお弁当、スペシャルドリンク、

刺繍入りのタオルから座布団に至るまで

ビョンホンの周りは彼女の趣味で埋め尽くされていった。

「オッパ。

今週の週末撮影がお休みの日おうちにお邪魔したらご迷惑ですか?」

横で聞いていたウナは感心していた。

彼女はとても賢かった。

必ずビョンホンが断れないような物言いでおねだりをしてくる。

彼よりもはるかに役者が上だった。

以前、あまりにも目に余るアピールぶりに業を煮やしてウナは

スエに言ったことがあった。

「ビョンホンssi、彼女がいるらしいわよ」と。

するとスエは表情を変えることなく応えた。

「あんなに素敵なんですからいない方がおかしいですよね。

でも、オッパ撮影中どなたとも約束していらっしゃらないし、

そういう間柄の方なんじゃありませんか。」

「そういう間柄の方ね・・・・揺ちゃん、こりゃ大変よ。」

その時ウナは小声で独り言をつぶやいたのだった。

「相変わらず、やってくれるわね・・・」

ウナはビョンホンの顔を憐れみの眼で見つめた。


「今週の週末か・・・じゃあ、クランクアップももうすぐだし、

スタッフみんなに声をかけて集まろうか。」

ビョンホンは笑いながらそういった。

(おっ、頑張ってるじゃん、ビョンホンssi)

ウナはニタッと笑って観察を続けていた。

「えっ、でも皆さん、お疲れじゃないでしょうか・・・」

とスエ。

(ククク・・・キタキタ)

「いや、大丈夫だよ。ご馳走を用意して元気つけてもらわないと」

ビョンホンはそういうとスエの方に目をやることなく

モニターに近寄っていった。

(やった!面白くなってきたわ。)

ウナはすっかり二人の様子を観察するのが趣味になりつつあった。





「それでね~。」

ウナは彰介に今日の出来事を電話で話していた。

「ヒョン、何ではっきり言わないんだよ。」

と不服そうな彰介。

「そんな言えるわけないじゃない。

はっきり言って彼女に騒がれたら

映画自体も宣伝効果も台無しになるでしょ。

まあ、しばらくは彼ものらりくらりかわすんだろうな。」

ウナは気の毒そうに言った。

「俳優もそんなことまで気にしなきゃいけないなんて・・・

大変な仕事だよな。」

と彰介が淡々と言った。

「ビョンホンssiは特別じゃない?

仕事に対する思い入れが半端じゃないからね。」

「でもさ、もうすぐ揺帰って来るだろ?どうするんだろ。」

「何だか嬉しそうじゃない」

怪しそうにウナが言う。

「だってさ、何か起こりそうじゃない?」

「それくらいで済めばいいけど・・・」

ウナはため息をついた。



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